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【解説】デザインエンジニアリングに必要な「発想」手段

デザインエンジニアリングに必要な「発想」手段

【目次】

Exective summary:「競争」から「共創」へ ― その為には何をどのように「発想」する必要があるのか ―

Exective summary 「もやもや」「ふわっと」は具象化する上で必要な工程

「もやもや」から「シグナル」を見つける発想方法① ― 人間中心設計・デザイン思考のアプローチ ―

「もやもや」から「シグナル」を見つける発想方法② ― 体験を時間軸で捉える ―

「もやもや」から「シグナル」を見つける発想方法③ ― バックキャスト・フォーキャスト ―

「シグナル」から「具象化」する発想方法 ― システミックデザインアプローチ ―

「具象化」から「システム」へ実現可能とする発想方法 ― 構造化シナリオ + シナリオシーケンス ―


企業が抱える課題解決のためのプロセスとして有効な「デザインエンジニアリング」。 第4回では「発想法」に着目し、sdtech流のデザインエンジニアリングを解説します。

 

「競争」から「共創」へ ― その為には何をどのように「発想」する必要があるのか ―

従来、自社の製品やサービスを企画する上で重要視されてきた基本戦略として、他社製品やサービスとの「差別化」あるいは、いかに「優位性」を保つかに着目されることが多く、飽和状態の中でコモディティ化を防ぐことに社員の力を注ぐ時代でした。時代は変わり「大量生産」「大量消費」「大量廃棄」が抱える環境破壊への道が、若い世代に繋ぐ責任のある社会や企業にとっても問題視され、企業の存在意義を見直す動きも見られます。また、一見類似とも思えるデジタルプロダクトがスマートフォンや動画配信等を通じ発信され、中にはユーザーとの接点を欺くかのような広告戦略にうんざりされている方もいるのではないでしょうか。

これまでの本記事の中でも挙げたように、不確実で未来予測しづらい「VUCA 」(※1) と言われる状況の中では、新しい価値を生み出しづらくなり、社会や企業は SDGs のように持続可能となるべく課題と目標を掲げ、海外市場との協調の為の ESG(Environment, Social, Governance)に視点を置き、多様性ある人々の生活に対しての価値観とは何かを見出し、創出することをビジョンやパーパスに掲げる企業も多くなり、多様性ある人々の「知」を新たな製品やサービスを構成する因子と捉え「共創」することが将来に向けて重要視されつつあります。

企業の中長期計画や新事業の内容を経営者や責任者が伝えるシーンを目にすることがありますが、現状の問題意識から、不確実な未来を多様な観点で想像・共創してきたことへと話が進み、自社の存在意義と生み出した製品やサービスの価値をストーリーとして言語化し人々に共感される内容であることも多く見受けられます。

今回の記事では、共感されるためのストーリーとはどのように描くのか、多様な価値観をどのような「発想」方法で描き、具象化されるまで成果を創出するのかを考えたいと思います。

 

「もやもや」「ふわっと」は具象化する上で必要な工程

「共創」はビジネスの世界でもトレンドワードになりつつあり、ストーリーや価値、アイデアを生み出す手段というイメージがあると思います。エスディーテックではその価値やアイデアを「どのように表現するか」を視野に入れ、デザイナとエンジニアがファシリテーターとなり、ユーザーや顧客とともに伴走し共創することが必要だと考えています。
製品やサービスを企画・開発する上で、大きなビジョンや数値的な目標、次の工程で何を実行するのか明確であること等、要求や要件を伝えることは当然ですが、その過程の中で抽象的な表現のまま、次のアクションが定まらず、中々プロジェクトが進まない段階があります。

デザイナの考えることは「もやもや」「ふわっと」としていて良く分からない、とよく言われることもありましたが、デザインという工程は、近視眼⇔遠視眼的な両視点で物事を見ていたり、ユーザー視点⇔作り手 / サービサー視点と行ったり来たりできる考え方が必要な工程です。
「もやもや」状態はある意味「探索中」であり、登場人物が変わることも、いろいろな立場の意見に耳を傾ける状況です。価値や体験を想像し、これから作る製品やサービスの「あるべき姿」の解像度を上げようとしている状態でもあると考えています。

どうしても最短距離のゴールや無駄を省いた効率という目線になりがちですが、「人対モノ」では解決できない課題が多い時代となり、様々な事象が人やモノやサービス、情報との「接点」が近づき複雑さは今後より加速する中で、様々な事象に目を向けながらでないと新しい価値を創出することは難しいのです。紆余曲折しながらも、そこから見えるもの、考えさせられることがあることで、新しい価値への因子や兆しが見えると考えています。

 

「もやもや」から「シグナル」を見つける発想方法① ― 人間中心設計・デザイン思考のアプローチ ―

これまでの記事の中でもデザインプロセスとして人間中心設計やデザイン思考の概要について説明しましたが、その中でも「発想→収束」の代表的な手法として以下のようなものがあります。

今回上記手法をそれぞれ解説することはしませんが(詳しくは下部記載のサイト等を活用ください)、これらを主体的に活用するには、課題となる事象や新しい体験を想像し「問うこと」と「解くこと」双方を行き来して発想することが必要で、なかなかにトレーニングも必要です。また、これら手法にシステムを設計するエンジニアも主体的に「発想→収束」しやすい方法も取り入れる必要性を感じています。でアインエンジニアリングを実践するには、この発想手法の後、システム設計でも役立つ成果となる側面を持つことも必要です。

特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構 https://www.hcdnet.org/
UXコンサルティング&リサーチ by イード https://u-site.jp/

 
 

「もやもや」から「シグナル」を見つける発想方法② ― 体験を時間軸で捉える ―

人間中心設計の中でも「エピソード的UX」というアプローチがあります。これはユーザーが製品やサービスを利用する過程を時間軸で捉えて、それぞれの過程でのユーザーとの接点とどのようなシステムであるべきかを発想する際にも導入しやすい考え方です。

この手法は「利用前・利用中・利用後・利用時間全体」という比較的「いま現在」のユーザーのライフサイクルを想定して仮説立てることに適していると考えています。「いつ? どこで? なにを?」までデザイナ主導で進むことも多いアプローチですが、エンジニアやクライアントと共にこの考察を行うことで、「いま現在」その体験をさせる「その手段」やどのようなシステムが「必要あるいは適しているのか」を並行して考察・発想することで、実現可能性やリアリティあるストーリーが描けるようになります
HCD(人間中心設計)における専門的な知識がなくともファシリテーションしやすく、且つ、「自分や近しい人のエピソード」を思い浮かべながら実施でき、発想するにあたり多様な参加者でも適切な仮説が描きやすいアプローチと言えます。

 

「もやもや」から「シグナル」を見つける発想方法③ ― バックキャスト・フォーキャスト ―

「VUCA」の時代であっても、経済活動を続ける為には、兆しや何らかのニーズのシグナルを見出し、製品やサービスに機能として盛り込み、ユーザーの期待に応え続けなければなりません。当社への業務依頼でも顧客が戦略上ターゲットとしたい時期は様々で、2, 3年以内のローンチを目指していたり、10年 20年を先読みして要件を決めなければならない要求など様々です。

有名な思考方法として「バックキャスト・フォーキャスト」がありますが、デザインエンジニアリングの中で活用する為に、社会や業界の未来像を追うだけではなく、技術の進化、法制度の変革、そしてそれらを背景に人々はどう行動するか、という所にも関心を持って臨むことが必要だと感じています。

ターゲットとなるデバイスのCPU/GPU性能、GPSや通信方式の特性、無線給電や非接触給電の規格、法令や進化、これらを活用したIoTデバイスや製品・サービスはこれからどのように進化するか動向を見つつ、それと並行して「バックキャスト・フォーキャスト」の視点で、要求や要件の確からしさを見ることも必要です。

これらは多岐に渡る専門のドメイン知識が必要ですので、デザイナ、エンジニアに限らず、多様性あるチームで仮説立てることが重要です。

 

「シグナル」から「具象化」する発想方法 ― システミックデザインアプローチ ―

これから物事を決めるにあたり、前提となる要求事項に「?」となることもあるかと思います。そのターゲットは本当に妥当なのか、その要求は製品やサービスを生み出す為に必要なのか、生み出す為の要件は適切なのか、これからを適切に定める為にデザイン思考の手法として「ダブルダイヤモンド」というものがあります。いくら解決方法が素晴らしくても、問題が正しくないと課題の解決にならない。また、正しい問題を見つけても、解決方法が間違っていると課題の解決にならない。「ダブルダイヤモンド」を取り入れることにより、1回目の発散と収束で解決すべき正しい問題を適切に定め、2回目の発散と収束で問題に対する解決方法を適切に定めることができるというアプローチです。

下図は、英国デザインカウンシルが 2005 年に編み出したアプローチですが、昨今の複雑かつ多様性に応える解決策を生み出す為、同協会は「システミックデザインプログラム」を生み出しました。「人とモノ」ではなく、社会や環境などのあらゆる複雑な相互作用の構造に焦点を当てたもので、「システム思考」と「デザイン思考」双方を統合したもので、同時に新たなシステムへの移行実現性も考慮されるべきと提唱しています。


出典:デザインカウンシル システミックデザインフレームワーク
https://www.designcouncil.org.uk/our-resources/systemic-design-framework/
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

 

製品やサービスの戦略上、社会背景や環境問題を視野に入れたターゲットの場合は、このようなフレームワークを活用してみると、何を要件とするべきか、どのように人々に共感されるストーリーとするか等、具象化するに当たって良い議論からアイデアも生むことができるのではないかと期待しています。

 

「具象化」から「システム」へ実現可能とする発想方法 ― 構造化シナリオ + シナリオシーケンス ―

ビジョン提案型のデザイン手法として「構造化シナリオ法」というものがあります。「構造化」はデジタルプロダクトを考える上でとても重要で、機能やコンテンツに「役割」を与え、ユーザーの「目的」から「達成」に向けて繋がりがあるものであることを示唆する「概念」モデルであるとも言えます。ユーザーにとって「目的」に対して「役割」が繋がりやすく、また、見つかりやすくする為であり、「文脈」をもたらすこともできます。

本来「構造化シナリオ」という手法は、具体的なシステム名称を用いることで、皆がそのシステムの中で出来ることに限られて発想してしまう為、例えば「スマートフォンを使って決済を行う」という現実的な手段を想像するものではないのですが、デザインエンジニアリングを実践する上では、「スマートフォン」がフロントエンド、バックエンドでどのような処理や指令を出しているか理解しながらでないと、システムを開発する為の「設計」には生かせないアウトプットになってしまいます。システム開発者をこの「発想」に巻き込むためにも、エンジニアリング工程で「必要な情報」が明らかになることを理解してもらうことも必要です。

今回の記事では、デザインエンジニアリングを実践する上でのさまざまな「発想」方法やその応用例を紹介しました。「発想」を可視化することで共感し、新たな観点が見え、「本質的な要求」に応えるストーリーが仕様に含むことができているかを再認識することで、よりよい「共創」のスタイルが実現できるのではと考えています。

次回(第5回)のホワイトペーパーでは「発想」から「共創」、その結果をいかに「実現」するのかを紹介いたします。

 
 

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